茶の正月小林 八重子
望に満ちた2011年をお迎えのこととお慶び申し上げます。
新年=お正月の常識からすれば少し外れているかもしれませんが、「お茶の世界」の「お正月」に触れてみたいと思います。2010年の立冬は11月7日でした。開炉の時期は立冬の頃とか、柚の色づく頃とか言われており、我が家の炉開きは立冬の日に行いました。お茶の行事は一年24節季によって様々な行事があり、稽古でも道具の取り合わせによって季節を感じ楽しみます。
その中でも立冬の頃に行われる『口切りの茶事』は茶の正月にあたり、門口や露地の竹は青竹に改め、冬囲いされた木々はやってくる冬将軍に身構える様子が感じられます。
口切りとは、春先に茶壺に詰めた茶葉をこのときに封を切り、お客様に呈する事から出た言葉ですが、私たちには到底、茶師に頼む事はできないので、お茶屋さんから調達することになります。勿論、石臼で茶葉を挽いている方も皆無ではないと思いますが…
冬囲いした木々や青竹に取り替えられた我が家の坪庭(露地)でも『正月』を実感します。
茶事は昔から、二刻(4時間)を超えないで終わるのが良いとされ、主客の一期一会が繰り広げられます。寒い時期なので手あぶりなど、暖かい道具もかかせません。待合でお湯を頂き、外露地で亭主の迎え付けを待ち、茶席に入ります。床の間には目出度い掛軸がかかり、茶葉の入った茶壺が飾られたりして、前半は主客の挨拶の後、炭手前、懐石(勿論、お酒も)、お菓子をいただいて【中立】です。
【中立】とは酒肴などで、昂ぶった心や身体を露地に出て落ち着かせ、これからふるまわれる濃茶を頂くために、心静かに鳴物を待つためかもしれません。席入りの知らせは、小間であれば銅鑼(大小大小中中大)が、広間であれば喚鐘(大小中中大)が余韻を以て知らせてくれます。この音を蹲って聞くのもお茶事の醍醐味かもしれません。 客は手水を使い、湯桶の用意があれば、湯で口をすすぎ、再び入室します。席中には、前座の時の掛物はなく、初めて花が入ります。炉の花は椿が主になりますが、亭主心入れの道具などを愛でながら濃茶、後炭、薄茶と流れていきます。終わればあっさりしたもので、にじり口と露地で挨拶をして、表までお見送りは致しません。名残りの気持ちを互いに持ちながら余韻を残すということでしょうか?
立冬の炉開きは、都合で一日に二度の茶事を行いましたので、二度目の席入は午後5時になってしまい、灯籠や足下行灯に火を入れると、ゆらゆら揺れる火影が幻想的で、小春日和に恵まれた特別な炉開きとなりました。
一方『初釜』は、新年を迎えた初めてのお稽古という意味ですが、近年は社中だけでなく、ホテルや旅館で合同で行う大寄せの茶が主流となってきています。それはそれで楽しみながら、やはり社中だけの『初釜』も大事なことだとつくづく感じる昨今でもあります。
お茶事をすると、料理などにも心を込めますが、お酒をたしなむ?事にもなりますので男性は楽しみにする所以かもしれません。正式な茶事でなくとも、さらっとお薄を一服というお茶も楽しいものです。
是非一度、我が家の露地にいらっしゃいませんか…